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賃貸経営

第11回 賃貸借契約における信頼関係の破壊(前編)

1 はじめに

契約を締結した当事者の一方が債務不履行(契約違反)をした場合、相手方は、履行を催告した上で契約を解除できるのが原則です。

もっとも、賃貸借契約は、賃貸人と賃借人との継続的な信頼関係を前提に成り立つという特殊性がありますので、契約を解除するためには、単に債務不履行があるというだけではなく、賃貸人との信頼関係を破壊して契約の継続を困難にさせるほどの重大な不信行為(背信行為)が必要とされています。これは信頼関係破壊の法理と呼ばれており、判例上確立した考え方となっています。この法理は、賃貸借契約が解除されると賃借人が生活の基盤を失うなど酷な場合があることから、契約解除できる場合を制限するものと言うことができます。

ただ、「信頼関係の破壊」と言ってもその内容は明確ではなく、それだけに争いが生じやすいところですが、その判断要素については過去の裁判例が参考になりますので、今回は、債務不履行のうち、①賃料滞納、②賃借権譲渡・転貸の各類型について若干の裁判例をご紹介させて頂きます。

 

 

2 賃料滞納

賃料滞納は債務不履行の典型例ですが、直ちに契約解除できるわけではなく、信頼関係を破壊するほどの背信性が必要となります。一般的には、3ヶ月分程度の滞納があれば解除可能とされていますが、滞納の経緯や原因は様々ですので一概には言えません。

たとえば、借地契約で17ヶ月分以上の滞納があった事案では、賃貸人が支払を猶予する慣行があったこと、賃借人が子の病気の対応に忙殺されていたこと、催告を受けた賃借人が真摯な対応をしたことなどの事情を考慮して契約解除が否定されました。借地契約で12ヶ月分の滞納があった事案でも、滞納時に賃貸人が異議を述べていなかったことなどに鑑み契約解除を認めなかったものがあります。また、借家契約で5ヶ月分の賃料を滞納していたケースでは、漏水等の事故が相次いで発生しており損害賠償の交渉を行っていたことや、賃借人が解除の通告を受けて間もなく滞納分を支払ったことなどを考慮して契約解除を認めませんでした。

一方、1~2ヶ月程度の滞納であっても、過去に賃借人が再三滞納を繰り返していたなど背信性の強い場合は解除が認められることもあります。このように、裁判例では、賃料滞納の金額のみならず、滞納の経緯、催促の有無、賃借人の対応などの様々な事情が考慮されています。

 

3 賃借権譲渡・転貸

賃貸人に無断で賃借権の譲渡・転貸をすることは禁止されていますが、この場合も解除するためには背信性が必要となります。形式的には譲渡・転貸に当たるとしても、実質的に見て賃貸物件の使用状況や賃料の支払状況に変動がない場合は背信性が認められない傾向にあります。

たとえば、親と同居していた子が遺産分割によって親の借地権を取得した事案では、形式的には借地権の譲渡に当たるものの、子が居住している状況は変わっていないため背信性は認められませんでした。また、賃借人が個人事業から会社形態に変更した事案でも、形式的には譲渡・転貸に当たりますが、実質的に事業の実体が変わらない場合は背信性が認められにくいところです。一方、賃借人である会社の株式が第三者に譲渡されて代表取締役が変更された事案で背信性が認められたケースもあります。

 

4 終わりに

賃貸人の立場からすれば、契約解除が認められるハードルが高いと感じられるかも知れませんが、実際の裁判例でどのように判断されているのかを知っておくことは有用と思われます。次回は、③無断増改築、④用法違反、⑤迷惑行為について、若干の裁判例を踏まえてご説明したいと思います。

 

(著者:弁護士 戸門)

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