第6回 賃借人から受け取る金銭(後編)
1 はじめに
今回は、賃貸人が賃借人から受け取る金銭のうち、更新料と各種承諾料についてご説明いたします。
2 更新料
賃貸借契約の更新時に賃借人から受け取る金銭ですが、賃借人に更新料を請求するためには、更新料を支払う旨の特約(更新料支払特約)が賃貸借契約書等に定められている必要があります。たとえ過去に更新料が支払われたことがあっても、原則として更新料支払特約がなければ請求することはできません(ただし、更新料の支払を合意していたといえる事情があれば請求可能です。)。
賃貸借契約の更新には、当事者の合意により更新する場合(合意更新)と、借地借家法に基づき自動的に更新される場合(法定更新)があります。更新料支払特約を定めていても、法定更新の場合は含まれないと解釈される可能性があるため、「合意更新と法定更新とを問わず更新料を支払う」旨の文言にすることが望ましいでしょう。
更新料の金額は、借家契約では賃料1~2ヶ月分、借地契約では借地権価格の5%~10%程度が一般的と言われています。いずれにしても当事者間の合意(更新料支払特約)によって決まりますが、あまりに高過ぎると暴利行為として無効とされる場合もあります。
3 各種承諾料
(1)譲渡承諾料
借地人が第三者に借地権を譲渡するためには地主の承諾が必要ですが、承諾の対価として支払われるのが譲渡承諾料(名義書換料)です。なお、借地人の相続による名義変更の場合は、賃貸人の承諾は不要であるため、譲渡承諾料の問題は生じません。一方、借地人の推定相続人(将来相続人になる人)に借地権を譲渡する場合は譲渡承諾料の問題が生じますが、この場合は通常よりも低額とされています。
譲渡承諾料の金額は、借地権価格の10%程度が一般的とされています。譲渡承諾料の支払の要否や金額について、当事者間の協議で折り合いが付かない場合、借地人は、裁判所に借地権譲渡の許可を求めることができます(借地非訟)。審理の結果、借地権譲渡が相当と認められる場合は、裁判所が譲渡を許可するとともに承諾料の金額等を定めることになります。
(2)増改築承諾料
借地上の建物について増改築禁止特約が定められている場合、建物を増改築するためには地主の承諾が必要ですが、承諾の対価として支払われるのが増改築承諾料です。
増改築とは、床面積を増加させること(増築)及び建物を建て替えること(改築)をいい、建物の耐用年数に大きく影響を及ぼすような大修繕工事も含まれると解されています。もっとも、個別の事案では、特約で禁止されている「増改築」に該当するか否かが争われることも少なくありません。
増改築承諾料の金額は、更地価格の3~5%程度が一般的とされています。この場合も、借地人は裁判所に増改築許可を求めることができます。
(3)条件変更承諾料
借地上の建物の種類、構造、用途等の借地条件が制限されている場合、借地条件を変更するためには地主の承諾が必要ですが、承諾の対価として支払われるのが条件変更承諾料です。たとえば、木造から鉄筋コンクリート造の建物に建て替える場合は、建物の構造が変わるので借地条件の変更となります。
条件変更承諾料の金額は、更地価格の5%~10%が一般的とされています。この場合も、借地人は裁判所に条件変更許可を求めることができます。
4 結語
賃借人から受け取る金銭については、支払の要否や金額等についてトラブルになることが少なくありません。これを防止するためには、どのような場合に何を請求できるのかを理解しておくことが重要ですので、この機会に一度ご確認頂ければと思います。
(著者:弁護士 戸門)