第4回 賃料改定の実務(後編)
1 はじめに
今回は、前回整理した賃料改定の基本ルールを踏まえ、実際の賃料改定の手順や具体的な事例についてご説明させて頂きます。
2 賃料改定の手順(協議→調停→訴訟)
まず、相手方に対して賃料改定を請求する旨の通知書を送付した上で、具体的な金額について協議を行います。
その際には、近隣の賃貸事例や経済事情の変動を示す資料などを用いるなどして話合いが行われます。賃料改定の問題については、できるだけ当事者間の合意で解決するのが望ましいとされているため、たとえ話合いが決裂したとしても、いきなり訴訟を提起することはできず、まずは裁判所の調停手続を経なければなりません。調停手続では、裁判所の調停委員を介して話合いが行われますが、それでも合意に至らなかった場合は訴訟を提起できるようになります。
訴訟では、双方が改定賃料を巡って主張立証を行いますが、最終的には、お互いの合意により金額を取り決めて和解するか、もしくは裁判官が判決を出して金額を定めることになります。判決の場合は、裁判所が選任した不動産鑑定士が鑑定書を作成し(鑑定費用は当事者負担となります)、前回ご紹介した賃料の鑑定手法(利回り法、スライド法、差額配分法、賃貸事例比較法)を用いて適正賃料を算定するのが通例です。裁判官は、基本的には鑑定書に従って判決を出しますが、事案によっては、賃料改定に関する慣行、契約当事者の人的関係、賃料改定の経緯など様々な事情を考慮し、鑑定書と異なる判決を出すこともあります。
3 具体的な事例
(1)売上減少時の賃料減額請求
商業施設の賃貸借契約において、テナントの売上が減少したとして賃料減額を求められることがありますが、それだけの理由で減額が認められるわけではありません。
とはいえ、無理に支払を求めても、結局は回収できなかったり退去されたりするリスクが出てきますので、場合によっては一定の減額や支払猶予に応じた方が得策となることもあるでしょう。なお、商業施設の賃貸借契約では、テナントの売上に一定の歩合をかけて賃料を算定する特約(歩合賃料)が定められていることもあります。
(2)元々低い賃料を定めていた場合
元々近隣相場より低い賃料が定められていた場合は、必ずしも増額請求によって近隣相場と同等の賃料まで上がるわけではありません。
ただし、元々は当事者間の個人的関係により賃料が低額にされていたところ、後にその個人的関係が消滅したような場合は、低額にされていた前提が失われるため、近隣相場の水準まで増額される可能性があります。
(3)直近合意から長期間が経過している場合
現行賃料を取り決めた時点(直近合意時点)から長期間が経過している場合は、現行賃料が不相当な状態に至っているとして改定が認められやすくなります。その場合、計算上は現行賃料からの大幅増になることもありますが、実際の訴訟では、大幅な増額は認められにくい傾向にあります。
4 まとめ
前回に続いて賃料改定の実務をご説明させて頂きましたが、賃貸人としては、賃料改定に関する基本的なルールを押さえた上で、日頃から近隣の賃料相場、地価、固定資産税等の変動状況を意識しておくことが望ましいと思われます。これによって、増額請求の可否や見通しを判断することができ、あるいは賃借人から減額請求された場合でも適切に対応することができますので、この機会に改めてご確認頂ければと思います。
(著者:弁護士 戸門)