第11回 転貸借に関するルール
1 はじめに
借地借家契約において、賃借人が対象物件を転貸(又貸し)するケースがあります。たとえば賃借人が転勤で不在にするため一時的に転貸する場合や、不動産会社が共同住宅を一括で借り上げて各部屋を転貸する場合(いわゆるサブリース)も見られます。今回は、転貸された場合にどのようなルールが適用されるのかを見ていきましょう。
2 転貸借が認められる場合
まず前提として、賃貸借契約では無断転貸が禁止されているので、賃借人が転貸するためには賃貸人の承諾が必要です。
無断で転貸された場合、賃貸人は賃貸借契約を解除し得ることになります。賃借人としては、賃貸人の承諾を得られないときは裁判所に転貸の許可を求めることもでき(借地非訟)、賃貸人に不利にならないと判断されれば転貸が許可されることになります。
3 転貸借に関するルール
転貸借が適法に成立した場合、賃貸借契約(賃貸人A:賃借人B)と転貸借契約(転貸人B:転借人C)の2つの契約が存在することになりますが、これらは別々の契約なので、一方が他方に影響しないのが原則です。もっとも、民法や借地借家法等により次のルールが適用されています。
(1)賃貸人Aと転借人Cとの関係
転借人Cは、転貸人Bに対して転貸借契約に基づく義務(賃料の支払、契約終了時の返還等)を負うのは当然ですが、賃貸人Aに対しても直接これらの義務を負うものとされています(ただし、賃借人Bの義務の範囲に限られます。)。転借人Cは、賃貸人Aに対する義務を履行すれば、その範囲で転貸人Bに対する義務を免れることになります。一方、転借人Cは賃貸人Aに対して権利を有するわけではないので、当該物件の補修や有益費の償還等をAに直接求めることはできません。
(2)転借人Cの故意・過失による賃借人Bの責任
たとえば転借人Cが故意・過失により当該建物を毀損した場合、賃借人Bが、賃貸人Aに対して債務不履行責任(損害賠償等)を負うことがあります。これは、転借人Cが賃借人Bの履行補助者であるとの考え方によるものです。
(3)更新拒絶の正当事由
借地借家契約において、賃貸人Aが賃借人Bとの契約更新を拒絶するためには正当事由が必要とされています。その判断にあたっては、各当事者が当該物件を使用する必要性などの諸事情が考慮されますが、転貸されているケースでは、転借人Cの使用の必要性も考慮されることになります。つまり、転借人Cが当該物件を使用する必要性が高ければ、賃貸借契約(賃貸人A:賃借人B)の更新拒絶は認められにくい方向になります。
(4)賃貸借契約の終了と転貸借契約の関係
賃貸借契約(賃貸人A:賃借人B)が終了すると、賃借人(転貸人)Bは転借人Cに転貸することが不可能になりますので、転貸借契約も終了し、賃貸人Aに当該物件を明け渡さなければならないのが原則です。もっとも、賃借人Aと賃貸人Bが賃貸借契約を合意解除した場合は、賃貸人Aは転借人Cに契約終了を主張できません。そうしなければ、賃貸人Aと賃借人Bが結託して転借人Cを容易に追い出すことができてしまうからです。
(5)契約終了の通知
借家契約が期間満了または解約申入れにより終了するときは、賃貸人Aは転借人Cにその旨を通知しなければ契約終了を主張することができません。また、この通知をもって直ちに転貸借契約を終了させるのは転借人Cに酷なので、通知後6ヶ月が経過してから契約終了するものとされています。
4 終わりに
以上のとおり、転貸借には特有のルールがありますので、特に転貸物件をお持ちの方や、賃借人から転貸承諾を求められている方は、これを機会に改めてご確認頂ければと思います。
(著者:弁護士 戸門)