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賃貸経営

契約違反による借家契約の解除

1 はじめに

賃借人の家賃滞納が続いた場合は借家契約を解除することができますが(詳細は第2回「家賃滞納による建物明渡し(基本編)」をご覧ください。)、家賃が毎月支払われている場合でも、賃借人が何らかの契約違反をしたために契約解除を検討することがあります。そこで、どのような場合に契約解除できるのか、実際の裁判例を挙げながらご説明させて頂きます。

 

 

 

 

2 信頼関係の破壊

借家契約では、賃借人に契約違反があれば直ちに解除できるわけではなく、賃貸人との信頼関係が破壊されるほどの背信行為であることが必要となります。ただ、どのような場合に信頼関係が破壊されたと言えるのかについて明確な基準はありませんので、事案ごとに様々な事情を考慮して判断されています。

 

3 裁判例

⑴ 用法違反

使用目的を「住居」として建物を賃貸したにもかかわらず、賃借人が会社の事務処理を行っていたことが用法違反に当たるとして契約解除が主張された事案です。

形式的には契約違反(用法違反)に当たりますが、実際に住居としても使用されていたこと、会社の実質的な営業活動は建物外で行われていたこと、近隣の苦情もなかったことなどが考慮され、賃借人に背信行為はないとして契約解除は認められませんでした。

⑵ ゴミ放置

共同住宅の一室において、空き缶や空き瓶など多量のゴミが放置されていたため、危険、不潔、迷惑行為を禁じた条項に違反するとして契約解除が主張された事案です。

ゴミの放置状態が多少不潔という程度では解除は認められませんが、当該事案では、賃貸人が再三注意したにもかかわらず2年以上放置されてきたことや、極めて多量のゴミが放置されているために衛生面や火災の危険等から近隣住民に多大な迷惑を与えることなどが考慮され、借家契約の解除が認められました。

⑶ 無断改築

無断増改築禁止条項の付いた賃貸借契約において、部屋と部屋との間の壁を撤去するなどの工事が無断でなされたため、賃貸人が契約違反による解除を求めた事案です。

このような無断改築の場合も、工事の内容によっては解除が認められないことがありますが、壁を撤去して間取りを変更する大きな工事であったことや、事前に賃貸人の承諾を求める機会があったにもかかわらず無断で施工したことなどが考慮され、契約解除は有効と判断されました。

⑷ ペット飼育

犬猫等のペット飼育禁止条項の付いた賃貸借契約において、賃借人が犬を飼育していたために契約解除が主張された事案です。

賃借人が飼育していたのは2.5キログラム程度の小型犬であり、その鳴き声等により近隣住民に迷惑をかけたり建物に損害を与えたりしたことはないとの理由から、信頼関係の破壊は認められないとして契約解除は無効と判断されました。

 

4 終わりに

上記のとおり、契約解除の可否については、賃借人の契約違反の内容・程度や従前の経緯など、様々な事情を考慮して判断されています。過去の裁判例を参考として、契約解除の可否につきある程度の見通しを立てることはできますが、やはり明確な基準がない以上、判断が難しいケースも少なくありません。

そこで、契約解除が認められる可能性を少しでも上げるために賃貸人ができることとしては、契約違反の具体的内容を正確に確認すること、賃借人に違反状態の是正を求めること、契約違反による影響(建物への影響や近隣の迷惑等)を確認することなどが考えられますが、いずれもメモ、写真、録音等によって逐一証拠化しておくことが重要です。契約違反による解除をご検討される方は、このような点にご留意頂ければと思います。

 

(著者:弁護士 戸門)

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