既存の建物に出来るだけがんばってもらう(建替えについて)
アパートが古くなったし、家賃も下がった、入居者が退去しても次の入居者が決まるまで時間がかかるようになった。賃貸経営をされている方のほとんどがこのような悩みを抱えています。建替えを検討し始めるのも、おおよそこの時期ではないでしょうか。
よくよくお話を聞いてみると、募集中なのは10戸中、1戸か2戸、募集開始してから3か月程度でだいたい次の入居者が決まる。賃料を少し下げると決まる、など。
このような場合は、まだまだ建替えを検討するのは時期尚早といえます。不安なのは理解できなくもありませんが、建物が利用できる間は、できるだけ建物に頑張ってもらう。ごくごく当然の話ですが、これが賃貸経営の基本です。このような段階でハウスメーカーに相談しますと、当然のごとく建替えの方向で話が進んでいきます。建替えにあたっては既存の入居者の立退きも必要となり、老朽化といえども余程の事が無ければ立退き費用をオーナーが負担しなければなりません。時間も費用もエネルギーもかかる大変な事業です。しかも頑張ればまだまだ建物を利用できるのにもったいないですね。
建替えることによって収益が大幅にアップするのであれば、経営上の観点からは、建替えは早い方がいいでしょう。しかし、建替えても既存の建物と同程度の規模のものの場合は大幅な収益アップは期待できません。借入金により計画する場合はなおのことです。また、場所によっては、建替えによって大きな投資をすることの方がリスクが高く、現在の建物による賃貸経営をもって事業を終了する事のほうが良い場合も考えられます。そのような観点からも既存の建物を出来るだけ長く利用するという考えが重要です。
確かに老朽化によって賃料が下がったり、募集期間が長くなったり、空室が目立ってくるかもしれません。しかし、建物建築時の借入金の返済さえ終了していれば多少賃料が下落しようと、空室が目立とうと、実はそれほど深刻な問題ではありません。メンテナンスの状態にもよりますが、木造アパートでも40年程度は大きな問題なく利用が可能です。40年とは言わなくとも、借入金返済後、最低でも5年、できれば10年は建物に頑張ってもらいたいものです。
ご承知のとおり、5年後10年後はおろか来年の事もなかなか予測できない不透明な時代です。地球の反対側の出来事がわれわれの生活に影響を与えるような世の中です。
賃貸経営も同様ですね。このような不透明な時代だからこそ、建替えなどの大きな投資の決断はできるだけ先送りとし、1日でも長く、1円でも多く既存の建物に頑張って稼いでもらう。という守りの経営、守りの思考回路も必要なのではないでしょうか。
(著者:不動産コンサルタント 伊藤)