分けやすく、売りやすく
賃貸経営を取り巻く環境は時代とともに変わってきています。20年前、30年前と現在では社会経済情勢も大きく変わり、当然、土地活用の考え方も時代とともに変化しています。
現在における賃貸経営のキーワードは「分けやすく」「売りやすく」「早期回収」の3つです。
「分けやすく」とは、相続の際に分けやすい土地活用です。既にご承知の通り、不動産は現預金と異なり、分けづらい財産です。相続人が複数存在する場合は、将来の遺産分割を考慮して土地を活用する必要があります。例えば相続人である子が2人の場合、一つの敷地に1棟建築した場合は、相続の際に賃貸物件を2人で共有するか、あるいは1人が賃貸物件を相続し、もう1人が他の財産を相続する方法があります。賃貸物件の他に適当な財産があれば紛争も避けられるかもしれませんが、適当な財産が無い場合は、2人の共有となり、単独では処分、活用が出来なくなってしまいます。また、次の相続が発生した場合は、共有持ち分が細分化し、当事者が増えることによって、更に財産の管理、処分が困難になってしまします。
一方、2棟建築した場合は、それぞれ単独で、賃貸物件を管理運営、処分することが可能となり、将来の無用な相続紛争を回避することが可能です。これは、相続人単独の意思で売却等を判断できることから「売りやすく」とい観点でも有効です。売りやすい土地活用とは、意思決定のしやすさ、という人の問題に加えて、どのようなものを建築するかという物理的な問題や、市場環境、法規制など、多くの要素が関係してきますので、次回以降、この「売りやすさ」という点についてはもう少し掘り下げてお話しさせていただきます。
3つ目の「早期回収」とは投資効率、投資利回りという観点です。かつては鉄筋コンクリートなどの堅固な建物を、法令で建築できる限度いっぱいに、出来るだけ数多くの部屋を設けることが有効活用と捉えられていました。賃貸需要も旺盛で貸し手主導の時代は、このように目いっぱい建てて、目いっぱい収益を得るという考え方で良かったのかもしれません。しかし、現在は供給過多による借りて主導の時代であり、賃貸経営においてはこれから先の明るい要素はなかなか見当たりません。時代の変化は目まぐるしく10年後20年後の社会経済、ライフスタイルがどのようになるのか、どのような物件や間取りが入居者に支持されるのかは想像できません。このような事から、いかに事業として早期に投資回収を図れるかが、このような先行き不透明なリスクを回避する重要なポイントのひとつになります。かつての最大収益ではなく投資効率を重視する時代です。また、建築資金の調達についても借入金に多くを依存しないことが重要です。賃貸経営の破たんの多くは借入金過多です。借入金がなければ、賃料下落も空室リスクも命とりにはなりません。
新たに賃貸物件の建築を検討しているかたは、今一度立ち止まって、「分けやすく」「売りやすく」「早期回収」という観点でじっくり検討してみては如何でしょうか。
何も急ぐ理由はありません。
(著者:不動産コンサルタント 伊藤)