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相続

司法書士の事件簿~第3回「親の自宅を処分して老人ホームの費用に充てたいけれど」 

【案件その3~親の自宅を処分して老人ホームの費用に充てたいけれど】

今回は、成年後見制度についてお話ししようと思います。

例えば、認知症の症状が進行してきた親が、自宅で生活することが困難となってきたため、今後老人ホームで暮らしたいと希望し、ご家族もそれを希望しているけれども、その費用が不足しているために、親名義の不動産を処分し、その費用に充てようと計画しているような場合、どのような問題が生じうるのでしょうか?

 

 

もちろん、認知症といっても、その程度は人それぞれであり、ご自身の資産を売却してその代金を受領し、老人ホームの費用その他今後の生活費に充てるということの意味を理解し、判断できる能力があれば、その親自身が売主として自宅を処分することは可能です。

しかし、現実には、親の認知症の症状が相当進行し、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」(民法第7条)場合は、その者は売主としての行為能力を有しないため、自宅を処分することはできません。

 

そのような場合は、その親について、配偶者や四親等内の親族等が後見開始の審判を申し立て、成年後見にを付し、成年後見人が家庭裁判所の許可を得た上で、親の自宅を売却するという手続を取らざるを得ません。

ここでの問題点は、その関係者(配偶者や子その他の親族、売却を依頼した不動産業者や購入希望者)は、至急上記の手続を経て、売却を進めたいという意向で一致しているのもかかわらず、実際にはその親について後見開始の審判を申し立て、審判が出て後見人が選任され、後見人が本人の財産を調査し、その後、やっと自宅売却ができる状況になるというように、時間がかかってしまう(申立てをしてから概ね3か月程度)点にあります。

これは、そもそも、成年後見制度そのものが、本件のような不動産処分のためだけにあるのではない以上、ある意味仕方のない部分ではあるのですが、関係者にとっては不満のある部分でもあります。

また、成年後見人の資格には、法律上一定の制限(欠格事由)はあるものの、それ以外の制限はなく、親族が選任される場合もありますし、弁護士や我々司法書士のようないわゆる専門職が選任されることもあります。

その選任については、申立ての際に「候補者」を指定することはできるものの、最終的には家庭裁判所の判断に委ねられています。このため、場合によっては、親族を後見人の「候補者」としたけれども、結果的には我々専門職が後見人とされ、親族の意向に反する結果となってしまうことも多々あります。

 

この点、従来、一旦後見開始の審判がなされると、本人の能力が回復する等の特別な事情がない限り、本人が亡くなるまで同じ成年後見人が職務を継続するという運用がなされてきました。

しかし、近時は、そのような運用を見直し、本件のように、本人の不動産の処分が終わり、今後老人ホームで生活できる十分な費用が確保でき、その他特段の問題点や懸念事項がない場合は、その時点で、それまでの専門職後見人から親族後見人に引き継ぐという柔軟な運用も認められつつあります。

私もこのような運用は好ましい変化だと感じており、我々専門職は、本件の不動産処分のような専門的知識が必要な課題についてスポット的に関与し、その課題が解決すれば、しかるべき親族に後見人を引き継いでいただくという役割分担を進めていくことも成年後見制度がより一般国民に理解される制度となる一つの方向だと考えます。

 

(著者:司法書士 大谷)

 

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