第8回 令和5年4月1日施行の民法改正等(後編)
1 はじめに
今回は、令和5年4月1日施行の民法改正のうち、①所有者不明土地(建物)管理制度、②相続に関する改正点について、ポイントを絞ってご説明いたします。民法以外にも、③不動産登記法の改正(相続登記の義務化等)、④相続土地国庫帰属法の概要について若干取り上げたいと思います。
2 所有者不明土地(建物)管理制度
近年、所有者不明土地(建物)の増加が社会問題となっており、土地(建物)が管理されずに長期間放置されることによって環境の悪化や土地利用の阻害等の悪影響が生じています。そこで、所有者不明土地(建物)について管理の必要があるときは、利害関係人の申立てにより、裁判所が当該土地(建物)の管理人を選任する制度が設けられました。所有者が不明である場合にも管理人を選任できること、不明所有者の全財産ではなく当該土地(建物)のみに限定して管理できることなどに本制度の特徴があります。
3 相続に関する改正点
(1)従前、相続人が不在の場合は相続財産管理人が選任され、主に相続財産の清算に関する業務(換価、弁済等)が行われていましたが、今回の改正では、特に相続財産の管理業務を目的とする相続財産管理人の制度が設けられました(一方、従前の相続財産管理人は、「相続財産清算人」に名称変更されました。)。
(2)遺産分割に関しては、相続開始から10年経っても遺産分割が未了の場合、特別受益や寄与分を主張することができなくなりました。これによって、早期の遺産分割とこれに基づく相続登記を促進し、所有者不明土地(建物)の発生を阻止することを目的としています。
4 不動産登記法の改正(令和6年4月1日施行)
(1)近年増加している所有者不明土地は、所有者が亡くなっても相続登記をせずに長期間放置していることが主な原因となっているため、所有者不明土地の防止のために相続登記が義務化されました。不動産を取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内(施行日より前に相続が発生した場合は、施行日から3年以内)に相続登記の申請を義務付けられ、正当な理由なく申請を怠った場合は10万円以下の過料が科せられることになります。
(2)所有者不明土地のもう一つの原因として、土地の所有者が転居したにもかかわらず住所変更登記をしないまま長期間が経過する場合があります。そこで、不動産の所有者が住所を変更した場合は、変更日から2年以内に住所変更登記を申請することも義務付けられました。正当な理由なく申請を怠った場合は5万円以下の過料が科せられることになります。
5 相続土地国庫帰属法(令和5年4月27日施行)
相続した土地が不要な場合に、国に引き取ってもらうための手続を定めた相続土地国庫帰属法が制定されました。相続放棄の方法によると全ての遺産を放棄することになりますが、本法によれば特定の土地だけ手放すことが可能となります。ただし、国庫帰属を申請して承認されるためには多くの要件をクリアしなければなりません(建物がない、土壌汚染がない、境界が明確で争いがない、通常の管理・処分をするにあたり過分の費用・労力を要しないなど)。また、国庫帰属させるためには負担金を支払う必要もあり、その金額は原則として一律20万円(面積を問わない)とされていますが、例外的に、面積に応じて個別に算定する場合もあるので注意を要します。
6 終わりに
令和5年4月1日施行の民法改正とこれに関連する法整備は広範囲に亘っているため、特に重要と思われる点に絞ってご説明させて頂きました。皆様のそれぞれの状況に応じて、今後影響しそうな改正点がありましたらこの機会にご確認頂ければと思います。
以上
(著者:弁護士 戸門)