老朽不動産と建築途中の不動産の相続
◎建築途中に相続が発生したらどうなるの?
相続発生のタイミングとしてはそれほど多くないケースですが、相続税対策を検討している方には知っておいてほしいテーマです。
今回は、「建築中の建物の評価と借入金の扱い」「建築中の敷地に小規模宅地等の特例は適用できるか?」といった疑問にお答えします。
◎借入金でアパートを建築して相続税対策
有効な相続税対策の一つに、借入金によるアパートの建築が挙げられます。
以前、総額15億円ほどの不動産を所有する方の相続税申告についてご相談をいただきました。この方は、所有する土地のすべてにアパートを建築しており、その費用として15億円の借入をしていました。
家屋の相続税評価は、時価の60%程度とされる固定資産税評価額が採用されることや、詳細な土地評価と各種特例を使用することで評価額が大きく下がり、15億円という不動産がありながらも相続税の申告義務は発生しませんでした。借入をしてマイナスの資産を増やすだけでは相続税対策にはなりませんが、このように借入金を建物に変えることで相続税対策として有効になる場合があります。
◎建築中の建物の評価と借入金の扱い
建物を建築している途中で相続が発生した場合、建物の評価と借入金の扱いは以下のようになります。建築中の建物は、相続開始時までに建築物に投入した費用原価の70%相当が相続税評価額になります。費用原価とは、被相続人が生前に実際に支払った金額ではなく、建築業者が実際に工事に投入した金額のことをいいます。そのため、建築途中に相続税評価額を算出する際には、建築業者に依頼して工事の進捗割合などを提出してもらい、それをもとに費用原価を計算することになります。
また、建物を建築するために調達した借入金は、費用原価と実際の支払い額(=実行済借入金額)との差額によって扱いが決まります。費用原価よりも支払額が大きい場合には、その差額が相続財産となり、支払額よりも費用原価が大きい場合には、差額が相続債務ということになります。
◎小規模宅地等の特例は適用できるのか?
「建築途中だから」という理由で小規模宅地等の特例の適用が認められないということはありません。竣工後にその建物を事業用や居住用として使用することが認められる場合には、一定の条件下で適用が認められます。
イ)事業用建物の場合、元々の事業用地を使用した建て替えの場合に適用可。ロ)居住用建物の場合、元々の居住地を使用した建て替えの場合に適用可(被相続人が他の所有土地に生活の本拠を移していた場合には不可)。また、もともと自宅を所有しておらず、新たに建築しようとしていた場合についても、適用の対象として認められます。
◎最後に
老朽不動産を建て替えることや更地に新しく建物を建てることは相続税対策としてたいへん有効といえます。ただし事業用不動産では、収益性が低い場合に相続財産が目減りしてしまうという事象や、賃貸経営等によって現金が増えた分、相続税額が上がってしまうという本末転倒の結果を招く可能性もあるため、注意が必要です。
また建築途中に相続が発生した場合には、上記の通り、相続税評価額にも影響があるため、建築を始めるタイミングについても慎重に判断する必要があります。対策の効果を十分に得るためにも、相続税や不動産賃貸事業に詳しい専門家に相談し、数年に一度は対策を再検討することをおすすめします。
(著者:税理士 高原)