“負”動産論争にピリオド?(「相続土地国庫帰属法」他)
◎貸せない、売れない、住まない「負動産」
「負動産(ふどうさん)」という言葉をご存じでしょうか。
親からの相続によって取得されたものの、不便な地方や過疎地域にあり、賃貸にまわそうとしても借り手が見つからない、売却も困難であるなど、所有しているだけでマイナスとなる不動産のことです。
相続税申告のお手伝いをしていると、10件に2〜3件ほどの割合で、「負動産」の相談を頂きます。所有者からは、「売却するか自治体へ寄付したいのだけど出来ないの?」という質問が頻出するのですが、所有者自身が「負動産」と認識するものを欲しがる人はいません。
間接的な方法として、相続放棄をすることにより最終的に国庫に帰属させる方法もありますが、民法では一部の財産を放棄し必要な財産のみ相続するということは認められていないため、採用は現実的ではありません。民法第239条2項に「所有者のない不動産は国庫に帰属する」という条文がありますが、実は現行の民法では持ち主が直接、不動産所有権を放棄できるという規定はありません。この条文は言葉の通り、当初から所有者が存在しない不動産を想定しているといわれています。
◎相続登記の常識も大変革!「相続土地国庫帰属法」が成立
国は、望まない相続によって土地が放置されるのを防ぐため、民法や不動産登記法の改正を検討してきました。
そのようにして、令和3年4月21日、使いみちのない土地を国に引き渡せる制度「相続土地国庫帰属法」が新たに成立しました。これら法案には以下の規定が設けられています。
①相続による取得を知ってから3年以内の登記申請を義務化(違反すると10万円の過料)。
②遺産分割がまとまらない場合は法定相続による相続登記をするか、相続人が法務局へ申告することにより相続登記の義務が免除(ただし遺産分割協議成立日から3年内の期限で登記義務発生)。
③登記申請が10年間行われない場合は、法定割合で自動分割取得とみなされる。
④法務局が住基ネットを元に登記簿上の所有者の死亡情報を登記することが可能(相続関係者が遺産情報の把握が容易になる)。
⑤一部の相続登記(相続人に対する遺贈等)について登記申請の際の添付書類が簡略化。
⑥不動産の所有者が住所や氏名を変更した際には2年以内の登記申請を義務化(違反すると5万円以下の過料。法人も本社の移転登記を怠った場合も同様)。
⑦「建物がない」「抵当権等がついていない」「土壌汚染がない」「境界が確定している」など「管理または処分にあたって過分の費用又は労力を負担する土地ではない」という条件を満たした上で、10年間分の管理費用等を納付した土地について国庫への納付を認める。
◎現実は理想ほど甘くない?新法のゆくえ
新法「相続土地国庫帰属法」では、10年分の管理費相当額を納付のうえで所有権を国庫に帰属させることができます。額は用途や面積、周辺環境などに応じて定められるそうですが、国有地の標準的な10年分の管理費は200㎡の宅地で約80万円ほどだといいます。この管理費用に加え、境界確定・土壌汚染調査などの条件整備費用も必要になります。
おそらく国は、「市街化調整区域にある空き家の宅地」など、比較的容易に処分できる土地について申し出があると想定しているのでしょう。しかしそのような土地は、それでもやり方次第では活用が可能になる場合もあります。所有者が本当に国に引き渡したいのは、手をつけるのも難しい未開の地であることが多いのではないでしょうか。新法が、「相続土地国庫“不“帰属法」にならないことを祈るばかりです。施行は令和6年を予定しています。
(著者:税理士 高原)