認知症対策について(家族信託)
【認知症になるとどうなる?】
車の逆走事故や鉄道線路に立ち入っての事故などで「認知症」を原因とした事故もマスコミを通じて耳に入ってきています。
「自分はまだまだ大丈夫、自分は認知症にならない」と信じている方も多いと思いますが、実際の認知証数はどの程度でしょうか。
まずは、厚生労働省のデータを考察してみますと、平成24年度においては、認知症高齢者数が462万人まで達しており、65歳以上の高齢者の約7人に1人となっております。認知証高齢者は、年々増加傾向にあり、7年後(2025年)においては、約5人に1人が認知症と推計されております。認知証になると、本人に意志能力がないと判断され、様々な社会行為、法律行為ができなくなります。
例えば、不動産の売買、預金の引き出し、遺言書の作成等々などです。中でも、トラブルになりがちなのが契約の締結です。
意思能力とは、法律上の判断において、自己の行為の法的結果を認識・判断できる能力のことです。この意志能力がないと判断されると、あらゆる契約行為はできなくなります。今年、120年ぶりの大改正となる改正民法が国会で可決成立しましたが、意志能力については「重度の認知症など、意志能力がない状態で行った契約は無効である」と明記されることになりました。
【認知証になった場合の賃貸経営】
アパート経営では、オーナーと入居者との間に賃貸借契約が結べなくなるということです。
それ以外にも、契約の更新・解除や入居者退出時の原状回復の工事、大規模修繕工事などでもオーナーの意思の確認ができないと、それらの業務が滞ってしまうことになります。実際には、親族が代わって各種の手続きをしていることが多いと思われますが、厳密に言うと、法的には無効ということになります。また、アパートの管理を任せている不動産会社が認知症になったことをいいことに、本来オーナーに支払う家賃を搾取してしまう等のトラブルも増えてきています。そのままでは、アパート経営を継続することができなくなりますので、認知症発症後の対処法としては、成年後見制度を活用することになります。
■成年後見制度とは
アパートオーナーが認知症になると、賃貸借契約、契約の更新・解除ができなくなり、やがては経営そのものができなくなる可能性もあります。成年後見制度は、認知症などにより意思能力が低下し、契約の締結ができない人に代わって、成年後見人が契約の締結や財産の管理を行う制度です。
アパート経営において、オーナーが認知症になった場合は、配偶者や子どもを含む親族が家庭裁判所に成年後見人選任の申し立てをすることになります。その後は、家庭裁判所の調査官による事実関係の調査、審判、審判の告知と通知といった手続きがあります。また、提出書類も親族関係図、財産目録、収支報告書など複数の書類を提出します。ほとんどのケースでは、専門家に依頼されると思いますが、申し立てから法定後見の開始まで通常2〜5カ月程度かかると言われており、その間、アパート経営の管理が滞ることになります。また、成年後見人を誰にするかですが、資産が多いと親族ではなく司法書士や弁護士が選任されるケースが多いようです。
資産管理・運用については、成年後見人に委ねられることになりますが、成年後見制度の目的は「本人の保護」です。資産を売却したり、運用したり、相続人のために相続対策をしたりすることは認められません。例えば相続対策を考慮して老朽アパートを建て替える、大規模修善をするなどという運用はできないのです。
【認知症対策は、事前対策が有効】
認知症を発症する前の事前対策として、①任意後見契約、②家族信託契約があります。
賃貸住宅など資産のある方が、認知症対策を何もしていない場合、最終的には成年後見制度を活用することになるでしょう。「管理業務委任契約」も賃貸借契約などの代理権で、老朽アパートの建て替えなどはもちろんできません。
そこで、今注目されているのが「家族信託」です。信託と聞くと敷居が高いように感じるかもしれませんが、家族信託は信託報酬を目的としない「民事信託」の一つで、信託銀行などが資産を管理する「商事信託」とは違います。家族に資産管理を託すことで、本人が認知症になってもスムーズな資産運用・管理が継続してできます。また、家族信託の仕組み、スキームの組み方も様々で、家族構成や資産の内容に合わせて柔軟に設計できるのも注目されている理由の一つです。
■家族信託のメリット
・家族構成、資産内容に合わせて、柔軟な資産管理・運用ができる。
・遺言ではできない二次相続以降の資産承継もできる。
「家族信託」を詳細に知りたい方、「家族信託」を検討すべきか迷っている方は、お気軽に当協会までお問合せください。
(著者:手塚)