第7回 令和5年4月1日施行の民法改正等(前編)
1 はじめに
近年、所有者不明土地が増加していることから、管理不足により環境が悪化し、あるいは土地の利用が阻害されるなどの悪影響が社会問題となっています。
そのため、所有者不明土地対策として一連の法整備がなされてきましたが、その一環として民法が一部改正されました(令和5年4月1日施行)。
改正は多岐に亘り、所有者不明土地対策以外の事項も含まれますが、今回は皆様にとって重要と思われる点に絞って概要をご説明させて頂きます。
2 相隣関係について
(1)隣地使用権
改正民法では、土地の所有者は、①境界壁や建物その他工作物の築造・収去・修繕、②境界標の調査や境界測量、③越境された枝の切除のため、必要な範囲で隣地を使用できることが明記されました。対象場面が広がったために隣地を使用しやすくなりましたが、原則として隣人に事前通知する必要があり、仮に拒否されても隣地使用を強行することはできない(妨害禁止請求訴訟等を提起しなければならない)ことについては注意を要します。
(2)ライフライン設備の設置・使用権
電気・ガス・水道等のライフライン設備を他人の土地に設置する場合に、所有者の承諾を得られずトラブルになるケースは少なくありません。そこで、改正民法では、ライフラインの給付を受けるために必要であるときは、他人の土地に設備を設置し、あるいは他人が所有する設備を使用できることが明記されました。これによってトラブルの緩和が期待されますが、隣人への事前通知や拒否された場合の対応については(1)と同様です。
(3)越境した枝の切除
隣地の竹木の枝が越境してきた場合に、竹木の所有者が切除を了承してくれず、または所在不明で連絡が取れないケースなどは枝の切除が困難となっていました。そこで、改正民法では、①竹木の所有者に催告しても切除してくれない場合、②竹木の所有者が不明な場合、③急迫の事情がある場合は、竹木所有者の了承なしに自ら枝を切除できるようになりました。
3 共有関係について
(1)軽微変更
共有物の管理行為(利用・改良する行為)については共有持分の過半数、変更行為(形状・効用を変更する行為)については共有者全員の同意が必要でしたが、共有物管理の円滑化のため、変更行為のうち形状・効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)については持分の過半数の同意で足りるとされました。具体的には、砂利道のアスファルト舗装、建物の外壁・屋上防水の修繕工事等は軽微変更に当たるとされていますが、何が軽微変更に当たるかは必ずしも明確とは言えませんので、今後の事例の集積が重要と思われます。
(2)裁判所による変更・管理決定
共有物の変更・管理について、一部の共有者が不明であるために全員(または過半数)の同意が得られないときは、他の共有者の申立てにより裁判所が審理を行い、不明者の同意なしで変更・管理の実施を決定することが可能となりました。
(3)共有物の管理者
共有物の管理行為を行うときに、その都度過半数の同意を取り付けるのは手間がかかるため、共有持分の過半数で管理者を選任することができ、当該管理者は共有物の管理行為をできることが明記されました。
(4)所在不明共有者の持分譲渡・取得
不動産の共有者の一部が不明の場合、他の共有者の申立てにより裁判所が審理を行い、不明者の持分をその共有者に取得させ、あるいは第三者に譲渡させることが可能になりました。
4 最後に
次回は後編として、所有者不明土地(建物)管理命令、相続に関する民法改正のほか、相続登記の義務化や相続土地国庫帰属法についても触れたいと思います。
以上
(著者:弁護士 戸門)