新・借地借家を巡る諸問題②_借地権の譲渡
1 はじめに
今回は、借地権の譲渡について取り上げます。借地権を設定するには、地上権(物権)による場合と土地賃借権(債権)による場合とがありますが、借地権の設定がどちらの権利によるのかにより、その譲渡の場面での取り扱いが大きく異なります。
今回は、こうした借地権譲渡の問題について、整理していただければと思います。
2 地上権による場合
借地権の設定が地上権による場合、地上権が物権であるという権利の性質上、その譲渡や転貸について、地上権設定者(地主)の承諾は不要となります。そのため、借地権の無断譲渡といった問題はそもそも生じないことになります。
このように、借地権の設定が地上権による場合、その譲渡に承諾が不要である等、地主地上権設定者(地主)にとって不利となる点が多くなるため、実務上は、借地権の設定が地上権によってなされる場合はそう多くないといえるでしょう。
3 土地賃借権による場合
⑴ 賃貸人の承諾
借地権の設定が土地賃借権による場合、土地賃借権の譲渡や転貸には、原則として賃貸人の承諾が必要となります。そのため、賃貸人の承諾なく土地賃借権の譲渡がなされた場合には、無断譲渡として、当該借地契約を解除することができるのが原則となります。
賃借人の保護に手厚い借地借家法の適用下においては、借地契約の解除は制限される場合が多くなりますが、土地賃借権の無断譲渡の場合には、借地契約の解除が認められるのが原則となります。
⑵ 譲渡承諾料
このように、土地賃借権の無断譲渡がなされた場合、原則として借地契約の解除が認められることになるため、土地賃借権の譲渡を希望する賃借人は、賃貸人に対して譲渡承諾料を支払うことにより承諾を得るのが通常ということになります。
譲渡承諾料の具体的金額については、借地契約上定めがあればそれに従うことになりますが、具体的金額の定めがなかったり承諾料の定め自体が特にない場合には、当事者間の協議により決定することになります。一般的には、借地権価格の10%程度が譲渡承諾料の目安と言われています。
⑶ 裁判所による譲渡許可
それでは、賃貸人が土地賃借権の譲渡を承諾しない場合、賃借人が土地賃借権を適法に譲渡することはできないのでしょうか。そうした場合、賃借人は裁判所に対し、借地上の建物の譲渡に伴う土地賃借権の譲渡について、賃貸人の承諾に代わる許可を求めることができます。当該譲渡許可の申立てには、申立て時点で借地上に建物が存在していることや具体的な譲渡先が決まっていることが必要となりますが、賃貸人に不利となるおそれがない場合には、譲渡承諾料に準じた金銭の支払い等を条件に譲渡が許可されるのが一般的です。
なお、このような裁判所に対する土地賃借権の譲渡許可の申立ては、「借地非訟事件」と呼ばれ、通常の裁判とは異なる非訟事件手続法に基づき処理されることになり、裁判は「決定」の形式で行われます。また、譲渡許可の決定があった場合でも、6ヶ月以内に賃借人が借地上の建物を譲渡しない場合には、原則として譲渡許可決定はその効力を失うことになります。
⑷ 賃貸人による譲受申立て
賃借人が、借地上の建物譲渡に伴う土地賃借権譲渡許可の申立てをした場合、賃貸人は、自己に優先的に当該建物を譲渡するよう、譲受申立てをすることが認められています。
賃貸人から、譲受申立てがあった場合、裁判所は、相当の対価等を定めて、当該土地賃借権付き建物を賃貸人に譲渡することを命ずることができるとされています。
(著者:弁護士 濱田)