「借地借家法を考える」⑥賃借権の相続問題
1 はじめに
今回は、賃借権の相続問題について取り上げます。
土地賃貸借でも建物賃貸借でも、賃貸借契約の当事者が契約途中で亡くなってしまった場合の法律関係は、色々と難しい問題を含んでいます。今回は、そうした問題のうち、賃借人に相続が発生した場合について、整理していただきたいと思います。
2 賃借権の相続問題
⑴ 賃借権の相続
賃借人が契約途中で亡くなった場合、賃借権も財産上の権利であることから、相続の対象なり、相続人が複数存在する場合は、原則として共同相続人全員が法定相続分に応じて賃借権を共有(準共有)することになります。その場合、各共同相続人は、共有持分に応じて賃借物を使用することができますが、賃料債務は、共同相続人全員の不可分債務となるため、賃貸人は、共同相続人の誰に対してでも、賃料全額の請求が可能となります。そして、賃料の未払いが発生し、賃貸人から当該賃貸借契約を解除することになった場合は、共同相続人全員に対して、解除通知をする必要があります。ちなみに、相続による賃借権の承継の場合、譲渡行為等を伴う「賃借権の譲渡・転貸」とは異なるため、賃借人の承諾は不要となります。
⑵ 遺産分割協議があった場合
共同相続人間で、賃借権を対象とした遺産分割協議がなされ、特定の相続人が賃借権を承継することに決まった場合は、当該相続人が単独の賃借人ということになります。そして、遺産分割協議成立以降の賃料請求は、単独の賃借人となった相続人に対してのみできることになり、賃貸人が契約解除を行う場合も、当該相続人に対してのみ通知すれば足りることになります。
では、遺産分割協議により、特定の相続人が賃借権を単独で承継することについては、賃貸人の承諾は必要ないのでしょうか。この点については、遺産分割協議という行為が介在するため賃貸人の承諾が必要と考える余地もありそうですが、実務的には、遺産分割協議による賃借権の単独承継についても、賃貸人の承諾は不要と考えられています。
⑶ 相続人が不存在の場合
賃借人に相続が発生した場合でも、必ず相続人たる親族がいるとは限りません。実際に、相続人たる親族なく亡くなる方も少なくなく、また、相続人たる親族はいても、皆相続放棄をしてしまい、結果、相続人が不存在となってしまう場合もあります。
そうした場合、賃借権はどのように取り扱われることになるのでしょうか。相続人が不存在の場合でも、賃借権や賃貸物件内の家財等の所有権は直ちに消滅する訳ではなく、相続法人に帰属するものとして存続します。そのため、賃借人が相続人なく亡くなってしまった場合でも、賃貸物件に自由に出入できる訳ではなく、賃貸物件内の家財を勝手に処分することもできません。
そのため、相続人が不存在の場合には、賃貸借契約賃借権を終了させて賃貸物件の明渡しを求めるにしても、「相続財産管理人」の選任を家庭裁判所へ申し立てる必要が出てきます。賃貸人としては、相続財産管理人の選任後、相続財産管理人を相手方として、賃貸借契約の終了や賃貸物件の明渡し等を求めてゆくことになります。
3 まとめ
賃貸借契約の当事者が契約途中で亡くなり相続が発生するということは、それほど珍しいことではないと思いますが、以上のような、色々と難しい問題を含んでいます。特に相続人が不存在となってしまったような場合は、慎重な対応が求められますので、弁護士等の専門家への相談をご検討いただくべき場面といえるでしょう。
(著者:弁護士 濱田)