貸宅地(底地)は不良資産か?②(換金性の観点から)
前回は「貸宅地は不良資産の代表格である」という論調に対し、「収益性」の観点からは決して不良資産ではないというお話をしました。今回は貸宅地の「換金性」について実務的な視点から考えてみたいとおもいます。
貸宅地は「借地権」という法律に守られた権利の負担(制約)がついている土地です。従いまして、何の負担の無い未利用の土地と比較すると、借地権の負担が付いている分、価値は低く評価されます。相続税の土地評価では制約の無い土地(自用地)を100とすると貸宅地は30から40という評価です。貸宅地の時価については必ずしも相続税の評価割合に従う必要はありませんが、やはり、相続税の評価の影響を少なからず受け、都市部では自用地の40前後が概ねの相場といえるでしょう。
この貸宅地の価値を実現(換金)するための方法の多くは、貸宅地を利用している借地人に売却するか、借地権を有している借地人と貸宅地を共同で第三者に完全な負担の無い所有権として売却し、その代金を話し合いによって分け合うかのいずれかです。しかし、いずれの方法によっても地主自らの意思のみで換金することはできません。借地人に売却しようと考えても借地人に資力がなければ換金できませんし、借地人と共同で第三者に売却しようと考えても、借地人に売却の意思がなければ、やはり換金できません。そういう意味では貸宅地の換金性は低いと言わざるを得ないでしょう。
このように貸宅地の換金性は低いものの、売却のタイミングや方法によっては換金、または換金と同様の効果を得ることが可能となります。
貸宅地の売却を検討する理由は様々ですが、その多くは、相続に伴う相続税の納税資金を確保しなければならない事情が発生した時です。前述したように貸宅地を借地人に売却しようとしても借地人に資力がなければ換金化できません。また、このような場面では、借地人に足元を見られ、買いたたかれるのではないか、という不安もあります。しかし、相続税の納付については、現金の代わりに土地そのものを納税資金の代わりとして国に納める「物納」という制度があり、貸宅地も一定の要件を満たすことにより物納が可能です。その場合の評価は相続税評価額となります、すなわち相続税評価額を現金の代わりとして引き取ってくれる、いわば国が買い取ってくれるようなものですので、相続税評価額を下回る価格で借地人に無理に売却する必要もありません。
このような事から、相続税を納付するという場面においては、借地人に資力がない場合でも、物納制度を活用することにより換金と同様の効果を得ることが可能となります。ただし、物納にあたっては相続税の金銭一括納付が困難であり、かつ延納(分割払い)によっても困難である事、この条件をクリアした上で、借地契約面積、実測面積、登記簿面積が一致していること等、借地人の協力が必要不可欠となりますので、相続を機に貸宅地を納税財源に充てようと検討している場合は、専門家と相談の上、事前の準備が必要となります。また、事前準備の段階で、借地人の購入の意向を把握しておくことも、いざという場面で、スムーズに納税を行うために必要な準備といえるでしょう。
以上の事から、貸宅地の換金性は低いものの、相続という場面では、換金および換金と同様の効果を得ることが可能です。
実務を通じて感じることは、借地人は、機会があれば何とかして土地を購入したいという意向が非常に強いということです。そこには、やはり地代の支払いや、更新料、承諾料などの経済的な負担に加え、他人の土地を借りているという精神的な負担が多いようです。
いずれにしましても、貸宅地は適正な管理をすることにより、資産価値を維持保全することが可能な立派な財産ということが言えるでしょう。
(著者:不動産コンサルタント 伊藤)