共同所有のかたちと将来
不動産を共同で所有すると、共有者単独の意思では、利用、処分が難しいことから不動産の共同所有はなるべく避けた方がいいことは誰しもが理解していることです。
しかし、いろんな事情により、共同所有にせざるを得ない、また、今後の管理、処分の事を深く考えずに共同所有するケースはまだまだたくさんあります。最初は良かれと思って、また、深く考えずに共同所有したとしても、最終的には売却してお金で分けたり、共同所有者の一人が持分を買い取ったりするなどして、共同所有状態はいつか必ず解消することになります。
相続によって相続人間での共同所有するケースが大半ですが、隣り合った第三者同士が、それぞれの小さい土地を最大限有効に活用する為に、互いの土地を一体利用し、共同でビルを建てる(建てた)というケースも意外と多く存在します。第三者同士で建築した建物の老朽化によって、所有者同士の意思が統一できず、売却も建替えも一向に進まず、ビルがスラム化してきた、という事例も増加しております。まさに、一緒に建てて良かった、と感じたのは最初だけです。
ここまであえて共同所有という言い方をしましたが、不動産の共同所有の形態は、共有と区分所有があるということを理解する必要があります。共有は全員合意によらなければ、その不動産の利用、処分ができませんが、区分所有の場合は、建物の独立した区分(共同住宅の住戸部分やオフィスのフロアなど)を区分所有者の単独の意思で利用、処分が可能です。
巷に溢れている分譲マンションがその典型です。まさに画期的で実用的な権利のはずなのですが、最近では老朽化したマンションの増加とともに、なかなか建て替えが進まないことが問題となっております。今後、この問題は更に増加し、深刻な社会問題となるでしょう。
マンションの建て替えが進まない理由は沢山ありますが、権利者が多いこと、それに伴いそれぞれの考えが異なること、加えて、それぞれの財布の事情が異なることなどが大きな要因です。このような事から、そもそも全員一致は難しかろうという前提で、区分所有法では、共有と異なり、全員一致ではなくても多数決によって、修繕や、建て替えが可能なルールを定めております。しかし、現実には前述した事情によってマンションの建て替えはほとんど進んでおりません。それは、区分所有といえども、やはり実態は一つの建物を多くの第三者で所有する共有と変わりがないからです。
同じ共同所有でも、かたや共有は全員一致によらないと利用処分できないということから、最も望ましくない権利形態と言われておりますが、こちらも、法律によって、共有状態を解消するためのルールが定められており、共有者は裁判によって共有を解消するための手続きをとることが可能となっております。裁判では最終的に不動産を物理的に分けるか、難しい場合は強制的に売却(競売)することによってお金で分けるという方法がとられます。これを共有物分割請求といいますが、要するに、共同所有の解消を実現するためには、区分所有より、共有の方が確実なのです。
共有は望ましくないといって、建物をフロアごとに区分所有し、親家族、息子家族、娘家族などでそれぞれ区分所有しているケースを見かけたりしますが、本質を理解していない安易な権利形態です。そもそも共同所有自体が難しい権利形態ですのでなるべく回避したほうが望ましいのはいうまでもありませんが、共同所有せざるを得ない場合、いつか必ず到来する共同所有状態の解消を考えると、共有にすることは大事な選択肢です。
人生100年時代、年金の事は気になっても、頑張って買った憧れのタワーマンションの50年後はそれほど気にならないようです。
(著者:不動産コンサルタント 伊藤)