新年号では、毎年、国の賃貸住宅についての施策をご紹介しています。令和7年度は、国土交通省 住宅局 参事官 杉田雅嗣 様に伺います。
【住宅セーフティネット法の改正】
手塚) まずは、住宅セーフティネット法の改正についてお願いいたします。
杉田) 改正法は今年の10月1日に施行予定です。改正の背景にあるのは、65歳以上の単身高齢者世帯の増加が顕著になり、2030年には900万世帯に迫る見通しになったことです。一方で、持ち家率が低下しており、高齢者、障害者、低額所得者などの住宅確保要配慮者(以下、要配慮者)の方々が賃貸住宅に円滑に入居できるよう、しっかりサポートする必要があります。現在は、全国で928(令和6年9月末時点)の居住支援法人が指定され、大家さんや入居者をサポートするため活動していますが、孤独死や死亡後の残置物処理などの問題による大家さんの拒否感が依然として課題となっています。
大きな改正点は2つです。1つ目は、大家さん・要配慮者の双方が安心して利用できる市場環境の整備であり、主に以下の3つです。
① 賃貸借契約が相続されない仕組みの促進
賃貸住宅の入居者が死亡すると通常は賃借権が相続され、相続人と契約解除を要するところ、入居者の死亡により契約が終了する「終身建物賃貸借」という制度があります。今般の改正ではその認可手続を簡素化しました。現行の制度では、対象住宅ごとに、事前に都道府県知事の認可を受ける必要がありますが、改正後は大家さんが事業者として認可を受ければよく、対象住宅については、実際に終身建物賃貸借をする時までに届け出ればよいことになります。
② 残置物処理に困らない仕組みの普及
単身入居者の死亡後に残された家財は、賃借権と同様に相続されるため、大家さんは勝手に処分できません。こうした事態に備えるため、国では、死亡時の残置物処理等事務の委任を円滑に行うためのモデル契約条項を令和3年に作成しました。加えて、モデル契約条項の普及のため、漫画やイラストを用いて説明した活用ガイドブックや使いやすい契約書式を令和6年に作成しています。さらに今回の法改正では、居住支援法人が行う業務に入居者からの委託に基づく残置物処理等を追加し、その担い手としての明確化を図りました。