昨年9月に毎年恒例の全国基準地価が公表されました。

基準地価とは土地取引や公用地買収などの指標となる価格で国土交通省が毎年7月1日時点の価格を9月中旬に公表するものです。

同じような指標で地価公示がありますが、こちらは毎年1月1日時点の価格を公表するもので、基準地価はそれから半年後の地価がどう変動したかを補正する役割があります。今年もおおかたの予想どおり大見出しでは「3大都市圏、地方圏ともに地価上昇」です。

今年の特徴としては、地方4大都市である札幌市、仙台市、広島市、福岡市を除いた地方圏が32年ぶりの上昇に転じた、ということでしょうか。要するに全国の地価上昇地点が増えたということです。

 

 

地方圏で新たに上昇したところは、外国人観光客などの需要が旺盛な観光地や再開発、大規模工場の誘致など、人が集まることによる地価上昇です。

30年以上下落を続けている、そのほかの地方都市については、土地の需要が少なく、相場が形成されていないというのが実情ではないでしょうか。㎡あたり千円上がった、下がったという公表値を見ると、評価した人の苦悩が読み取れるようです。要するに、特に地方では人が集まる街づくりができなければ地価の上昇は見込めないということが改めて確認できたということでしょうか。

今回の基準地価をもとに、東京都の住宅地を100とする都道府県別の価格指数を見ますと、最も乖離が大きいのが3.1の秋田県、その次が私の生まれ故郷である青森県の3.8です。単純比較ですが、東京都で1億円の住宅地は青森県では、なんと380万円と約30分の1ということになります。青森県出身の私の感覚としては概ね外れてはいないと思います。

 

住宅地の価格は30倍の開きがありますが、生活する上での収入はどうかと言えば、いくら安く見積もっても東京に暮らす人の月給が100万円で青森県に暮らす人の月給が3万8千円ということはありません。東京都とくらべ、住宅費が30分の1で食費、衣料費、燃料費などの小売価格がほぼ東京都変わらないことを考えますと、理論上は東京都に住む人よりも青森県に住む人の方が経済的に豊かなくらしができているということも言えるでしょうか。わかりやすいよう価格差のある例えを述べましたが、会社に出社しないテレワークの普及によって東京の企業に勤め、それなりの収入を得ながら地方で暮らすというスタイルも珍しくなくなってきつつあります。

 

東京都と青森県の比較は極端かもしれませんが、同じ指標で東京都と近い経済圏をみてみますと、神奈川県は45.8、埼玉県は28.5,千葉県は20.7、山梨県は5.4です。いずれもテレワークしなくとも東京に通勤できる距離ですので、なにも東京に住宅を買わなくても近県に住んで東京の会社に勤めるほうが経済的には十分豊かな生活ができるということがこのデータからも裏付けられています。

といっても東京都に住みたい、家を持ちたいというのは我々田舎者の性かもしれません。

 

(著者:不動産コンサルタント 伊藤)