何が危険?不動産以上に何もかも訳がわからないこと ~「デジタル資産」の相続対策~
◎「デジタルのことはよくわからないから…」と言ってもいられない方が増えています
平成27年に相続税の基礎控除額が引き下げられて以降、相続税の課税対象者が急増しました。
課税対象が全体の約4%といわれた時代から、現在その割合は約8%に増えています。
さて、そんな基礎控除改正当初にはほとんどお目にかからなかった種類の相続財産があります。私の肌感覚ではありますが、現在、相続税申告を年間100件お手伝いすると、2〜5件ほどは見られるようになってきました。
そう、今回のテーマは「デジタル資産」です。
◎ネット銀行や電子マネー、暗号資産などの総称です
デジタル資産の相続に際する注意点や問題点をコメントする前に、そもそもどのようなものが相続財産としてカウントされ、その承継について、税務署がどのような考えを示しているかというところに触れたいと思います。
はじめに相続財産とは、 ①有形無形を問わず経済的な価値を有し、その価値を金額で評価することができる ②その財産について相続人など相続権を有する人が権利義務を承継できるものすべて を指します。
デジタル資産に共通する大きな特徴として「パスワードを知らないと資産に接触できない(相続人が相続できない)」点がありますが、税務署は「『パスワードを知らないから相続できない(=相続手続きが進められない)』ことと『相続財産として申告しないこと』は別。遺族だけで相続手続きを進められないならば専門家に依頼すればいい」という立場にいます。ここですでに問題点の一つが透けて見えてきている気がしませんか?
◎デジタル資産の相続にはパスワードが必要不可欠!
過去、私がお手伝いさせていただいた方は、デジタル資産をパソコンやスマートフォンで管理されていました。必要になるのはパソコンやスマートフォン端末のロックを解除するパスワードをはじめ、各種デジタル資産の管理ページにアクセスするパスワード。「生前のうちに遺言書やエンディングノートでその存在を明確に」と専門家は言いますが、一般的に、精力的にデジタル資産を活用する年齢と遺言書などを書く年齢は乖離していると思います。後者の年齢の相続対策では、思い切って解約・処分という選択の方が適しているように思います。
◎商品知識のある被相続人から素人の相続人へ管理が移行
多くの場合、相続は突然訪れます。デジタル資産の相続の特徴として ①パスワードなどのログイン情報を知ることが難解 ②デジタル資産を所有していること自体把握しにくい ③商品の特徴が理解しにくい この3つが挙げられますが、このうち③が特に高リスクです。
相続が発生し、その裏で相場が下落、すぐに解約できないばかりに多額の債務を負っていた…という事態にも。いつか相続が発生する前提、相場が下がるかもしれない前提、いざとなれば相続人がすぐに止められる前提、デジタル資産に詳しい人に情報が共有してある前提など、不動産相続にはない幾つもの前提準備が必要です。
◎特効薬は信頼できる家族間の情報共有。地味ですがこれが一番。
相続人がデジタル資産を把握する方法は ①遺言書等の確認 ②被相続人宛郵便物の確認 ③パソコンやスマートフォンのデータを確認 ④通帳やクレジットカード履歴の確認 などがありますが、これはすべて相続開始後の手段です。「7月の路線価発表前に相続シミュレーションを」と税理士はじめ専門家から提案を受けるこのタイミングでデジタル相続対策もご家族と一緒に考えてみませんか?不動産相続よりも手ごわい課題に見えてくるはずです。
(著者:税理士 高原)