自分がいらない土地は他人(国)も不要?! 相続土地国庫帰属制度と相続税の物納
◎2023年4月施行!事前相談は法務局まで
相続したのはいいものの、相続税のみならず固定資産税や管理費など所有者に金銭的な負担がかかってしまう「負動産」について、どうにか上手いこと処分したいとご相談をいただくことがあります。
従来の手法としてご案内していた不動産の「物納」は、不要な不動産を処分できて、さらに納税資金に充てられるということで一石二鳥のものでしたが、これに加え4月からは「相続土地国庫帰属制度」がスタートしました。
◎物納申請は日本全国で年間63件のみという実情 ※令和3年度
国税庁の発表によると平成14年度には日本全国で5,700件を超える物納申請がありました。以降は右肩下がりで、現在の申請件数は100件を切っています。件数減少の理由として挙げられるのが物納のハードルの高さです。
相続税は金銭一時払いが原則です。納税に充てるべき金銭は被相続人の相続財産だけでなく、相続人固有の預貯金、有価証券・保険など換金性の高いものはすべて換金した上で次に検討するのが最大20年の分割払いが認められている「延納」。これには相続人の将来の収入も見込まれます。それでも金銭で納めることができない場合に限り、一定の相続財産を相続税の物納に充てることが選択可能となります。
物納に充てることができる財産は、種類によって、第1順位から第3順位まで定められています。このうち不動産は第1順位に含まれますが、不動産を物納劣後財産・管理処分不適格財産に分けて、この二つの財産を除いたものが優先されます。紙面の都合上、詳細は省きますが、境界未確定地、権利争いのある土地などが管理処分不適格財産、権利設定のある土地や違法建築建物とその敷地などが物納劣後財産です。このような土地を物納申請する場合、原則として境界を確定させておく必要がありますが、物納に充てられるかどうかも分からない不要な土地のために費用をかけて相続に備えること自体が現実的とは思えません。ここにもう一つのハードルの高さがあります。
◎相続土地国庫帰属制度は?
こちらは納税のための制度ではなく、長年放置されている未活用の国土を活用しようという目的のものです。
制度施行前に相続した土地でも、条件さえ満たせば国庫に「お金を払って」帰属させることができます。こちらもやはり利用には高いハードルがあり、物納のように「引き取ることができない土地」として却下事由が定められています。
建物がある土地や土壌汚染地、境界未確定地に加え、担保権・使用収益権が設定されている土地などがそれに該当します。
また、不承認事由(申請は可能なものの審査で承認が下りない可能性のある土地)として、一定の勾配・高さの崖があり管理に過分な費用・労力がかかる土地、埋設物のある土地、隣接する土地と境界争いがある土地、その他、通常の管理処分にあたって過分な費用・労力がかかる土地なども挙げられています。条件をクリアした土地に関して、国に承認申請を行い、手数料を支払ったのち、審査を通過するとようやく自身の手を離れることになります。ただし国庫帰属後には、元の土地の所有者が土地の管理の負担を免れる程度に応じて、国に生じる管理費用の一部を負担することとされており、原則として向こう10年間分の管理費相当の負担金(目安20万円)を支払う必要があります。
来年には相続登記の義務化もスタートし、いやが上にも不動産の謄本で所有者(=管理責任者)が明確化されます。これを良い機会と捉え、一族の相続不動産の棚卸、整理を行いましょう。
(著者:税理士 高原)