第12回 借地借家と災害
1 はじめに
地震、津波、火事などの災害が起きた場合、その規模や内容によっては借地借家契約に様々な影響が及ぶことが考えられます。
そこで、万一に備えて、災害発生時に生じ得る借地借家の問題を確認しておきたいと思います。
2 借家契約について
(1)災害により賃貸中の建物が滅失すると、借家契約は履行不能により終了します。
地震によって建物が倒壊しなかったとしても、復旧が不可能な場合や相当高額の復旧費用がかかる場合は滅失と判断される可能性があります。
(2)建物が一部損壊した場合、賃貸人は、必要且つ可能な範囲で修繕義務を負うことになります(修繕費用は火災保険や地震保険でカバーすることができます)。技術的には修繕可能であっても、賃料額に比較して過大な修繕費用を要するときは、修繕は不可能と判断されることもあります。
建物が損壊したことによって使用収益ができなくなった場合は、その割合に応じて賃料が減額されます。震災によりガス・水道等のライフラインが断絶した場合もこれに当てはまるものと考えられます。また、震災等により避難指示が出ている間は、賃貸人は当該建物を使用収益させることができないため、賃借人は賃料の支払義務を負わないものと解されています。
(3)建物が損壊して入居者や通行人に怪我を負わせた場合は、建物所有者が損害賠償責任を負うことがあります(工作物責任といいます)。建物が通常備えるべき安全性を欠いている場合は、地震等の不可抗力でも責任が生じますので、建物の安全性については日頃から十分注意する必要があります。
3 借地契約について
(1)災害により借地上の建物が滅失しても、基本的には借地契約が終了するわけではありません。建物の滅失後、新たに建物が築造された場合、当該建物が借地契約の残存期間を超えて存続する場合も少なくないため、賃貸人が築造を承諾した場合(または賃借人が建物を築造する旨を通知して2ヶ月以内に賃貸人が異議を述べなかった場合)に限り、従前の借地契約は更新されて新たに20年間存続することになります。
(2)地震により土地に亀裂や液状化が生じた場合も、借家が損壊した場合(前記2、(2))と同様に考えられます。賃貸人は必要且つ可能な範囲で修繕義務を負い、使用収益が不可能であれば賃料が減額される可能性もあります。
4 賃料不払について
借地・借家自体は使用収益可能でも、震災の影響で賃借人の収入が断たれ、賃料の不払が生じることが考えられます。通常は3ヶ月程度の不払があれば解除できることが多いですが、上記事情のもとでは賃料不払もやむを得ない部分があるため、解除は認められにくい方向に作用するものと思われます。
5 被災借地借家法
特に大規模な災害が生じた場合において、借地上の建物が滅失した場合における借地権者の保護等を図るため、被災借地借家法(正式名称:大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法)が制定されています。具体的には、借地人による借地契約の解約、借地権の譲渡・転貸について賃貸人の承諾に変わる裁判所の許可、被災地における暫定的な土地利用のための短期借地権、賃貸人が建物を再築して賃貸する場合における従前の賃借人への通知などが定められています。
(著者:弁護士 戸門)