新・借地借家を巡る諸問題⑥_建物賃料の減免・猶予
1 はじめに
新型コロナウイルス感染拡大の影響が社会全体に及ぶ中、緊急事態宣言に基づく営業自粛要請による事業活動の縮小等により売上が大幅に減少し店舗等の建物賃料の支払いが困難となる事業者が続出しています。
また事業者に限らず、収入減少により住居の賃料支払いが困難となっている個人も少なくありません。
こうした賃料の支払い問題は、大きな社会問題として取り上げられ、公的支援の実施も検討されていますが、国や地方自治体等による具体的支援の実施には未だ日数を要することが見込まれる状況です。
そうした現状において、困窮した賃借人から賃貸人に対し、建物賃料の減免や猶予を求められるケースが頻発し、弁護士へ相談が寄せられることも多くなっています。
そこで今回は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を理由とした賃借人からの建物賃料の減免や猶予の求めが、現行法上どのようなに解釈されるのか、また、賃貸人側の留意点についても整理したいと思います。
2 賃料の減免
⑴ 民法の規定
民法上、賃借人の責任によらず建物の使用収益ができなくなったような場合について、賃料減免の根拠となりうる規定は存在します(民法536条、611条)。
しかし、緊急事態宣言に基づく営業自粛要請がなされた場合であっても、直ちに建物の使用収益ができなくなる訳ではないため、これらの民法の規定に基づき、賃借人が賃料の減免を求めることは難しいと考えられます。
⑵ 借地借家法の規定
借地借家法上、建物賃料が、租税等の増減や建物価格の変動等により不相当となった場合や、近隣の賃料相場と比較して不相当となったような場合、契約当事者には建物賃料の増減を請求することが認められています(借地借家法32条)。
しかし、緊急事態宣言に基づく営業自粛要請がなされたような場合であっても、直ちに借地借家法上の増減事由に該当する訳ではありませんし、賃借人の収入減少といった事情も、こうした借地借家法上の賃料増減事由に該当しません。
そのため、現状において借地借家法上の規定を賃料減額請求の根拠とすることも、難しいと考えられます。
3 賃料の猶予
民法上、賃料の支払時期を定めた規定は存在しますが(民法614条)、賃借人側の事情に基づく賃料の猶予を直接に定めた規定は見当たりません。
この点については、借地借家法上も特別の規定はありません。
そのため、現状においては、法律上の根拠に基づき賃料の猶予を求めることも、難しいと考えられます。
4 賃貸人側の留意点
以上のとおり、現行法上は、緊急事態宣言に基づく営業自粛要請等の前提事実があったとしても、賃借人からの賃料の減免や猶予請求を法的に根拠づけることは難しく、賃料の減免や猶予は、あくまで任意の交渉に委ねられていると考えることになります。
賃貸人側としては、賃借人の事情を考慮して、一定の範囲で賃料の減免や猶予要請に応じるという対応も考えられますが、賃貸借契約に基づく賃料等の支払いについては、連帯保証人が存在する場合が多いと思います。
賃借人に対して、賃料を任意に減免した場合には、当該減免分を連帯保証人に対して請求することはできなくなってしまうため、賃料の減免要請に応じる場合は、その点についての留意が必要です。
対連帯保証人との関係も考慮すると、現状における賃貸人側の対応としては、賃借人からの賃料の減免や猶予要請に対し、一定期間の猶予の限度で暫定的に応じつつ、今後の実施が見込まれる公的支援の実施を待って最終的な判断を下す、といった対応も考えられるのではないでしょうか。
(著者:弁護士 濱田)