相続税の税務調査②
今月は先月に引き続き相続税の税務調査を取り上げます。
前回は税務調査の概略を紹介しましたが、今回は税務調査が入った後だったにも関わらず納税者側からの「更正の請求」によって相続税が還付された事例です。
◎税務署職員の目は節穴!?
私たちの事務所に相続税見直しのご相談をくださったお客様のエピソードです。
その方は相続税申告の後、すでに税務調査を受けていました。それからしばらくして、「土地評価を見直すことで納め過ぎた相続税が戻ってくる可能性がある」という紹介を受け、還付可能性のチェックを私たちにご依頼くださいました。
ご自宅に伺うと、そこは高圧線の真下にある土地でした。しかし、相続税申告書を拝見すると、どう考えても考慮すべき「高圧線下地の減価」が土地の評価額に反映されていません(つまり、高い評価額で申告されていました)。
また税務調査当時の様子を伺ってみると、税務署職員は高圧線を見上げながら(その存在に気づきながら)自宅に入ってきたそうなのですが、いざ調査が始まると土地の評価明細は読み飛ばして、「この通帳の出金について…」などと預貯金の質問に終始したとのこと。結果、約300万円の追徴課税となり、税務調査は終了したそうです。
◎自己申告納税制度の大きな落とし穴
一般に、土地の相続税評価額がどういう場合に下がるのか網羅的に把握している納税者は少ないと思います。
そのため、税務調査時に税務署の職員が『正しい税額に是正するために』減価要因も指摘してくれる」と多くの方は思うでしょうが、残念ながらそれはほぼ誤解です。なぜならば、相続税は自己申告納税制度に基づく税金だからです。
つまり、「確かに高圧線下地の評価額は下がります。ですが、減額しないのが正しいとあなた(=納税者)は判断したのでしょう? それをあえて私たち(=税務署)が否定することはしません。減額しないことが法律違反になるわけではありませんから」というのが税務署側の言い分です。
◎約500万円の還付に成功
このお客様の場合、高圧線下地の減価のほかセットバックや都市計画道路予定地といった減価要因がほとんど反映されていない申告でした。それらをすべて評価意見書にまとめ、税務署に「更正の請求」を出したところ、約500万円の相続税が還付されました。先の追徴課税分を差し引くと、結果的に200万円の還付となったわけです。うがった見方かもしれませんが、税務署の職員はこの結果を予想して、あえて土地の減価を指摘しなかったのではと疑いたくなるような案件でした。
◎自分の身は自分で守る
税務調査は自己申告納税制度を支える大事な手続きです。
もし税務調査がなければ、所得税・法人税・消費税・相続税などすべて税務署が計算する賦課課税制度になるかもしれません。
そうなると一大事、節税という考えがそもそもなくなります。ですから税務調査は必要なのですが、先に述べたように自己申告納税制度が都合よく解釈されている実態がある以上、是正してもらうことを期待するのではなく、自分の身は自分で守るという意識を持つことも大切です。相続税を納めて5年以内の方は、税務調査を受けていたとしても、「還付される可能性がないか」チェックすべきです。ぜひご検討を!
(著者:税理士 高原)